舞台はデンマーク。賢明で人望厚い国王の死後わずか2か月で、王妃ガートルードは義弟クローディアスと再婚。そしてクローディアスが新たな国王となった。
ガートルードと亡くなった国王の息子、王子ハムレットは不信と悲しみに包まれていた。彼の癒しは重臣の娘である、恋人オフェーリアだけだった。
そんなある日ハムレットは、亡き父王の亡霊が出ると噂を聞き、ついにその亡霊と対面する。
亡霊は弟クローディアスと妻ガートルードが密通の末、弟に毒殺されたことを打ち明け、ハムレットにクローディアスへの復讐を命じる。しかしガートルードには手を出すなと言い残し、姿を消す。
ハムレットは復讐を決意、やがてクローディアスが罪を懺悔する現場を見つけるが、更に重臣であるオフェーリアの父もクローディアス達の仲間である事を知り、激しいショックを受ける。
そこへ何も知らず婚約の儀のためやってきたオフェーリアに対し、ハムレットは「尼寺へ行け」と告げ、オフェーリアは悲しみのあまり錯乱してしまう。
そして母ガートルードには罰を下そうとするが、再び亡霊が現れてハムレットを止める。
母への情と復讐の板挟みになりながら、結局ハムレットは手を下さず、母には祈るように、とだけ告げて立ち去る。
一方ハムレットに捨てられたオフェーリアは狂乱状態となり、城から出て、川に身を投げて自殺してしまう。
しかしハムレットはオフェーリアの死をまだ知らない。彼女の精神異常について自責の念に駆られている。
するとそこへオフェーリアへの弔いの歌が聞こえ、ハムレットは全てを察する。
悲しみのあまりオフェーリアの後を追おうとするハムレットだが、三たび亡霊が現れ、今こそ復讐を果たせと告げる。
弔いにやってきたクローディアスを刺し、復讐を果たすハムレット。
そして物語の結末は ---
フランスの作曲家トマ(Ambroise Thomas, 1811-1896)のオペラ『ハムレット(Hamlet)』は1868年に初演された5幕からなるグランドオペラです。
もちろん原作はシェイクスピアの四大悲劇のひとつであり、多くの方がご存じの作品です。
フランス語でのオペラ化にあたり、台本はジュール・バルビエ(Jules Barbier)とミシェル・カレ(Michel
Carré)という二人の共作で作られました。この二人は本作に大きな改変を加えました。これがオペラの初演版です。
一方、イギリスで上演されるに当たって、その改変を原作に合わせるような改稿が行われ上演されました。今回の公演は初演で使われた楽譜を採用しています。
また、今回は「せんがわ劇場」での上演に当たって、本来は3時間以上かかるこのオペラの聴き所を凝縮したハイライト形式にし、なおかつ演劇的にも集中して頂けるよう日本語訳詞上演に踏み切りました。
このせんがわ劇場という演劇と音楽、両方のジャンルをフォローする会場ならではの特性を活かし、シンプルな舞台と演出で、いかにわかりやすくお客様に楽しんで頂けるか、そして歌手の音楽と演技が可能な限りストレートに伝わるよう腐心致しました。
また、オペラ『ハムレット』ではハムレット役そのものがなかなか難しく、音域、キャラクター、演技力、容姿等、歌える方を非常に選びます。今回は飯田裕之氏による、ハムレットをご堪能頂けると思います。
このオペラ『ハムレット』全体の上演はそれほど頻繁に行われませんが、中でもオフェーリアのアリアは『ランメルモールのルチア』『清教徒』と並ぶ狂乱の場として、単独でのソプラノのアリアとしてもよく歌われます。今回は、そのアリアがどのような流れで歌われるのかもご覧頂くと、より楽しんで観て頂くことができると思います。
そしてさらに悲劇を盛り上げるクローディアスと、前王の妻でありながらその弟クローディアスと結婚したハムレットの母ガートルード、この2人こそこの物語を際立たせる重要な役なのです。一見すると単なる悪役にも思われがちなこの2人ですが、人間は何故悪に走るのか、罪を犯した人間はいかに生きるのか、人間の弱さ、悲しさが描かれています。
ハムレットの脇を固める個性豊かなこの三役にも、是非ご注目ください。
この機会に『ハムレット』の原作を(改めて)読まれてからオペラに臨んで頂くもよし、またオペラを観て、聴いて、では原作はどんなものであったかと振り返って頂くもよし、何より、めったに上演されないこのオペラを是非ともご堪能下さい。ご来場を心よりお待ち申し上げます。